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Contents
まえがき
人間は、なにをやるにしても周囲の人々との協力が必要だ。会社でも家族でも学校でも、どこにいても何かの組織に所属しなければならない。
そして組織には必ずリーダーが必要となる。よいリーダーがいる組織は活気にあふれメンバーの顔は輝いているだろう。しかしそんな組織でも悪いリーダーに変わると、急に雰囲気は悪くなり、笑顔はなくなり、足の引っ張り合い、愚痴、言い訳、あるいは遅刻などが発生する。
もしあなたがなにかの組織のリーダーであるなら本書を手に取る価値は十分にある。じつのところ「よいリーダーになる」のは難しくない。ただしたった一つのコツがある。これを知らないリーダーは、どんなに人格者でも、組織を安定させられないし、これを知っているリーダーは多少自分勝手でも人がついてくる。本書では、この最重要のたった一つのコツについて多角的に説明していく。読者のみなさまには、是非このコツを活かして「最高のリーダー」への道を歩き出してほしい。
心が優しければリーダーとして一流か?
優しい人というのは魅力的だし、キライな人はいないだろう。上司が優しい人だったら会社に行くのも楽しいかもしれない。
ここで気をつけなければいけないのは、優しさには大きくわけて2つの質があるということだ。
一つ目は、女性のような、母性的なやさしさだ。これはとにかくその瞬間の相手の心を気遣う配慮だ。ビジネスシーンでは論理が先立つ場合が多いので心がないがしろになってしまうことがある。そこで、母性的なやさしさを持っているリーダーは、その瞬間、瞬間で部下をかばったりする。
二つ目は、男性的な、父性的な優しさだ。これには厳しさがつきまとう。先ほどの女性的な優しさに比べれば少し先を見て行動する。今、失敗させるのが部下のためとか、ダメなことをダメとはっきりと教えないと本人が将来大きな失敗をする可能性があるので、しっかりと叱るとか、そういった父親のような優しさ。
もちろん、部下に対する優しさはあったほうがいい。ただ、いくら優しくても、それでチームの業績が上がるわけではない。そうなれば部下の給料はあげられない。暖かく会社で見守られていても、結局は会社がだめになれば部下たちは世間に放り出される。そういった意味で、優しさがリーダーにとって「必要なたった一つの」こととは言えない。
業績を徹底的に上げるリーダーこそが真のリーダーか?
先ほどは優しくても業績が連動できるわけもなく、そうなれば部下に高い給料を上げることができないという問題が起きるという話をした。
想像してもらいたいが、もしあなたが昇給したら上司がどんな上司であろうとありがたいだろう。年収300万円を310万円にしてもらったくらいでは、あまりありがたみがないだろうが、1000万円にも2000万円にもしてくれるリーダーなら多少優しさがなくても付いていきたいと考えるだろう。じつのところこのタイプの「豪腕型」は非常に多い。一代で財を築いた経営者に多いタイプだ。
先ほど、話した優しさと、この業績を上げる力を兼ね備えていたら最高のリーダーと言えるだろうか。
古代中国ではリーダーの役割はメンバーたちに食を保証することであった。食を与えられるからメンバーたちはリーダーに従った。より多くの食を与えてくれるリーダーがいたら、そちらに移っていく。転職のようなものだ。それは国家単位でも同じで、多くの国民が食に困ったときに、食を保証してくれそうな新しいリーダーを求めて革命が始まる。中華大陸の歴史は常に食とともに動いてきた。だから一面、金をたくさんくれるリーダーというのは正しい。では、食を保証するということが、要するに高い給料を支払うということがリーダーに「必要なたった一つのこと」と言えるだろうか?
じつはこれも違う。現代は古代中華帝国の時代とは違うのだ。誰もが食のためだけに生きているわけではない。生活のために働きながらも、自分だけのなにかを探している。それが豊食の時代に生きている現代人だ。
マズローの欲求という概念がある。
人間の欲求を5段階にわけた考え方で、低次の欲求と高次の欲求が人間にはあると提唱しているものだ。
簡単に説明すると、食欲や性欲、睡眠欲、安全への欲求などの基本的な欲求は低次の欲求とされている。人間は必ず満たされたいのだが、それが満たされたあとには高次の欲求があらわれる。
それは権力欲や名誉欲。褒められたいとか認められたい。ようするに一角の人物として扱われたいというものだ。親が金持ちで生活に困らないからといって、毎日遊んで暮らしているだけなら日々は空虚なものだろう。「豪腕型」のリーダーは、その感覚をメンバーに与えてしまう。
マズローの欲求の一番上のものは自己実現欲求だ。
自己実現には必ず困難が必要で簡単にできるもので自己実現を感じられることはない。近所で買い物してくるとか、友達と映画に行くとかで自己実現を感じることはできないということだ。
英語ができるようになったとか、弁護士の資格を取ったとか、そういう難関を、超えなければ、自己実現は感じられないようになっている。
「豪腕型」リーダーは、この自己実現の可能性を奪ってしまうので、まだ最高のリーダーとは言えないということになる。
もちろんリーダーはメンバーの現実面の生活にも責任を負うべきだから、この現実的に仕事のできるリーダーたちは半分は責任を達成していると言える。
部下の生活と自己実現を促す上司
死んだときに「やりきった」そう感じられるようなやりがいに満ちたすばらしい人生を送りながらも、金銭的にも安定し生活もしっかりとしたものを送れる。そういった状況を作ってあげられるリーダーこそが理想のリーダーだ。ここで生まれる疑問は、ではチームのメンバーを、そのように導ける、そういったリーダーは、なにを意識しているのか、どんな能力があるのかということだ。
そしてもう一つ、普通の倫理観を持っている人間であれば安定した生活もリーダーに与えられたものでは居心地が悪いだろう。
たとえば、親が金持ちで生活に関してはまったく困らないからといって、自分の趣味の世界で自己実現していっても、満足感は半分だろう。その趣味が社会から認められて、自分の生活を安定させる程度になれば問題ないのだが、生活に関しては親だよりであれば満足感は低い。
画家を目指してせっせと絵を描いているとしよう。生活できるほどではないが、自分の満足いく絵を残せるようになった。評価してくれる人もいる。しかしその一方生活は親が残した遺産に頼っている。土地持ちだったりするパターンだ。ふだんはそれほど不満足を感じないだろう。しかし彼の前に、貧乏な画家があらわれた。こちらのが普通だが、別の仕事をしながら努力して絵を描き続けて彼と同じレベルまでの評価を得ている。
彼は、その貧乏画家を見て嫉妬せざる得なかったが、その嫉妬の正体はわからなかった。自分は自分なりに絵を楽しんでいるのに。
次第に理由がわかってきた。
自分がズルしているということに気がついたのだ。それが世間にも伝わるから賞賛や尊敬は得られない。あくまで金持ちの趣味としてしか誰からも見られない。貧乏画家とくらべると、それは明らかだった。マズローの5大欲求の中に承認欲求というものがある。人に認められたいという人間の心理だ。これは誰にでもあるもので、親の遺産で生活してる彼には、それがなかったのだ。
だからリーダーはメンバーが生活できるように手助けをし続けてはいけない。お互い様の状況、ようするに協力関係にしなければならない。あくまで生活を成り立たせるのはメンバー自身なのだ。これが「豪腕型」リーダーはできない。そこが限界でもある。
リーダーに必要なたった一つのこと
それは、メンバーの特徴を見抜く力だ。
もっと具体的に言うと、メンバーの長所と短所を見抜く力だ。
人間には誰でも良いところもあれば、悪いところもある。しかしこれが意外と自分ではわからないし、実際に、それを見つけてくれる人も少ない。そこでリーダーの登場だ。
まず、リーダーは長所が活きて、短所がカバーできる仕事にメンバーをつかせることだ。するとメンバーは活躍しはじめる。長所で働くのだから、当たり前だろう。活躍すれば、仕事が楽しくなる。すると長所をより使うようになるから、長所がさらに磨かれる。長所が急激に成長する好循環が生まれる。これはチームにもいい影響が出る。会社であれば業績が上がる。そうなれば、メンバーの生活を安定させるべく昇給することもできる。しかも、これはリーダーの仕事の結果ではなく、あくまでメンバーの長所が生み出した利益であるから、メンバーは自分で稼いだという達成感を得ることができる。もちろん人間だれでも短所があるから、メンバーも失敗することがある。たまに失敗するような仕事を与えても、ここまできたら大丈夫だ。すでに強烈に成長した彼の長所は、大抵の短所はカバーできる。自信を失うこともない。
人間は自分の才能が人の役に立ち社会の役に立ち、その結果感謝されることほどうれしいことはない。これはマズローの欲求で言うところの、承認欲求を満たすからだ。長所、短所を見抜けるリーダーなら、メンバーにまた新しい長所が育っていたら、それを見極めて新しい仕事を与えることもできる。
メンバーは、このリーダーからもらった仕事なら自分が輝けると覚えるから、リーダーからの仕事は何でも前向きに喜んで受けるようになる。こうなると、リーダーとメンバーの信頼関係は非常に強いものになる。
食によって政権交代が起こってしまう古代中国の話しにもう一度戻る。彼の国には古来ひとつの言葉がある。
「士は己を知る者のために死ぬ」
志あるものは、自分の価値を知ってくれる人のために死んでもいいという言葉だ。これは理想のリーダーを端的にあらわしている。人間は自分の才能、価値を認められるとうれしいのだ。命をかけてもいいくらい感動してしまうのだ。それほど人間の才能は人に発見してもらえない。飢餓によってクーデターが起こり政権交代するという、超現実主義の中華大陸の歴史ですら、このような言葉が残っている。はるかな昔から人間が強烈な自己承認を他者に求めていることを示していると言えるだろう。
だからもし、あなたが最高のリーダーになろうと思うなら、部下の長所と短所を正確に把握することだ。その市場価値や将来性も含めて世界一詳しくならなければいけない。
あなたが、そこまで部下に精通すると、様々な迷いはなくなる。たとえば、他所の部署から、部下を引き抜きたいと依頼されたとしよう。部下の特徴を完璧に把握しているあなたなら、それが彼のために、良いのか悪いのかわかるだろう。悪いならば、断る理由もしっかりとあるし、良いならば部下に、なぜ異動に応じたかしっかりと説明することもできる。
要するに、あなたは適材適所の達人になるわけだ。
そして適所によって長所が伸びた部下たちは市場価値があがり、この社会で高度な仕事に就くことができる。
あなたが長所短所を徹底的に見ぬくことができ、適材適所をしたなら
チームの業績が良くなる
メンバーが、あなたのことを非常に強く尊敬するようになる
それによりトラブルがあってもすぐに修復できる
メンバーが活躍しているから雰囲気がいい
それがお客様にも伝わるから顧客満足度が上がる
メンバーの給料が増えて心に余裕ができる。
それにより離職率が下がる。
メンバーが成長し過ぎたら能力が高いので自然と退職してくれる
退職したメンバーとも仲間として付き合い続けられる
それがチームとしても、外の人脈になる。元同じチームという、この人脈はもっとも強い。
現職のメンバーも将来の選択肢が目に見えることでモチベーションがあがる。
これほどのよいことが起こる。
長所と短所を見極める力を養うには
メンバーの特徴を見極め適材適所することが効果的だという理由は、ここまで説明してきたが、ここで新たな問題が生まれる。
「そもそもどうやって長所、短所を見極めればいいのか」
メンバーの長所、短所を知るための工夫は無数にあるのだが、根底に流れるのは興味だ。メンバーに対する興味。人間とはどういったものかという好奇心だ。よく経営者で歴史が好きな人がいる。歴史とは、人間が紡いだもので、そこには様々な人間の類型がある。経営者は、普通のサラリーマンに比べればはるかに人間に興味があるから、歴史好きな人が増えるのだろう。
なぜ経営者が人に興味があるのか?
簡単に言えばたくさんの人間を自社で使っているからだ。
面接では調子のいいことを言っていたのに、実際に雇ってみたら、対して働かないという人がいたとしよう。こんなときに歴史の話は少し参考になる。
武田信玄は、よく話したり、よくうなずいたりする人間をあまり信用しなかった。そういった人間は、相手に自分がどう思われるかに集中しており、話の内容を真剣には聞いていないのだ。信玄は、
「思慮深く、物事を成す人間は話を聞くときに畳を見ながら視線は一定、思案しながら聞くものだ。」
と、言ったとされている。
こういった話を聞いたときに、先ほどの面接で調子のよい新入社員が思い浮かぶ。
このように人間を知るために歴史を学ぶのは人間通になるにはよいトレーニングだ。
チーム内でできる具体的な長所、短所の発見の仕方を、もう少し解説しよう。
まず、趣味だ。土日はなにをしているのか。スポーツなのか、釣りなのか、ゲームなのか。そして、なぜ、それが好きなのか。
次に、家族構成だ。長男なのか、長女なのか、末っ子か、一人っ子か。
また親御さんはどんな仕事をしているのか、商店なのか、サラリーマンなのか、社長だったりするかもしれない。
夢はなにか、人生の目標はなにか、子どもは何歳か、家は持っているのか、ローンはどのくらい残っているのか、そういった情報も大切だ。
ようするに、メンバーの全ての情報だ。それを知れば知るほど、長所と短所が見えてくる。職場での様子を見ることはしているのだから、それ以外の状況を知れば必然的に特徴が見えてくる。
毎日毎日、筋トレを続けているメンバーなら、継続力を必要とする業務に強いことがわかるし、物事の習慣化が上手なのかもしれない。第一子なら、子どものころから下の子の面倒を見てきたからまとめ役ができるかもしれないし、末っ子ならお客さんの懐に入ることに長けているかもしれない。情報が多ければ多いほど、いろいろな仮説が生まれるはずだ。そうなったら、次はその仮説を試してみたらいい。一発で適材適所といかなくても全く問題ない。大抵の組織では、適材適所という意識すらなく配属を決めているくらいで、5回6回外しても、カチッと、うまくいくところを一回見つけてしまえば、そのあとは安定する。ただ、テストは、テストとして行って、配属されたメンバーが傷つかないような配慮は必要だ。
さて、では、どのように情報を得るのか。権力をカサに来て情報を引き出そうとしたら、パワハラだ。
ここで重要なのは雑談だ。とにかく仕事中だろうと、雑談をしよう。雑談の少ない組織は生産性が低いという調査結果があるのだが、それはお互いの理解度が高まらない問題によるものだ。雑談することにより、事前に業務上の問題に気がつくこともあるので、雑談はかなりお得だ。
とはいえ、接客業のように業種や職場によっては雑談が難しい場合がある。そんなときは昼食に一緒にいくなりするといい。そこで、自分の家族の話などをリーダーからすることだ。
「わたしの場合はこうだけど、そちらは?」
と、いうのは、自然な展開だろう。
また、メンバー複数人と食事に行くのもいい。その場合は自分は話さなくてもいい。ふだん聞けないような話が入ってくるだろう。
よく飲み会を開く人がいるが、それはおすすめできない。飲み会自体がメンバーのプレッシャーになってしまう場合がある。まず、睡眠時間を奪うことになる。次に金も奪うことになる。健康と金を奪う飲み会は非常に開催コストが高いと言えるので、イザというときに取っておこう。
あとがき
さて、本書で提示した、
「リーダーに必要なたった一つのこと」
に、満足していただけただろうか?
本書はビジネス実用書であるから、もし感銘できる部分が一部でもあるようなら、是非実際の現場でご利用いただきたい。
本書をきっかけに、リーダーであるあなたがメンバーの長所と短所を見つけるとともに、自己の長所と短所を見つけ適所を得て飛躍されることを祈っている。
士は己を知る者のために死ぬ
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